万事、塞翁が馬

人生の幸・不幸は予測しがたい。最後に立っていたやつが勝ちさ。京都で酒造ベンチャーをやっているよ。

酒造免許の講習をした

先月、酒造免許が欲しいという人の依頼で酒造免許の講習をしました。

講習の資料をこっちに置いてあります。

drive.google.com

概要を簡単に解説すると、

前提になっているのは酒造免許の交付要件のうちの「経験条項」つまり「私はお酒を作る能力が十分にあります」というのを証明するという部分。

農学部醸造学科卒

・酒造メーカでの勤務歴

のどちらかである場合は問題にならないが、新規に取得する場合(町おこしで地ビールを作るなど)はたいてい未経験なので躓く。

「条件を満たせば新規の免許を交付する」とあるのに事実上免許が取れないとなると「何考えてるんだお前ら」という話になり、町おこしの場合町長さんが怒る。町長さんは地域の有力者で、税務署長(20代の若手のキャリア官僚が下積みで来てる)も頭が上がらない。

「経験を有する事」としか書いてないのに「この二つしか認めないって法律解釈学的にどうなの?限定解釈が正しいという根拠あるの?」って話になり窓口の人が困ってしまう。

研修というのはその救済処置みたいなもので

・酒造メーカで3日くらいの研修を受けた

でも条件がクリアになる。

免許の申請でひっかる項目はあと何個かあるが、経験条項は研修先さえ探せば3日でクリアできる。

研修内容は法律で決まってないのでどこも好き勝手やっているらしく、

「東京で研修をお願いしたところは夏に1週間草むしりでした」
という話を聞いた事がある。修了証はもらえたが「ええんかな?」と思ったそうである。

 

今回の研修は3日間用意した。免許の交付を受けれるという前提で、免許の維持のために許認可事業者の義務を果たさないといけない。できないと更新ができない(免許が切れて廃業になる)。

1.酒税法について
2.食品衛生学・食品衛生法について
3.実習および質疑応答、商売上のコツ

の3項目に分けた。一応、「これくらいはわかってないと実務上話にならんだろう」という基準で内容を作った。

講習を受けた人の感想は

「これは職人になる訓練というよりも事務員の養成ですね」

というもの。本質を理解しているなと感心した。

 

製造業をやるには
1.商品を作る

2.商品を売る

3.雑務(資金調達・会計・税務・法務・ITなど)

の3つ必要で、1つ目は工場の運営でモノづくりとか職人の話、2つ目は営業とか宣伝、3つ目は要するに本社機能であり、事業をやる以上は1と2は外注できるけど3は絶対に必要になる。工場はないけど本社あるはあり得るが、逆は無い。

 

ドラクエで言うと1が戦士で2が魔法使いで3が僧侶。

製造は単純作業に分解してバイトや機械が無限に繰り返す(たたかうを連打)。2は便利な営業台本を作るか気の利いた宣伝文句で売上を作る(現代の魔法。できない人はできない)。

3は辛気臭い顔をしたアンデットの群れをやっつける呪文を唱えたり(「それは行政手続法上問題があるのでは?」)、死にかけた事業に銀行をだまくらかして資金を注入したりする(冒険初期のレベルが低いときによく死ぬ)。

 

エクセルの基本操作、便利なクラウドサービスを上手に使う、簿記3級程度の会計の知識、行政から補助金を取る、銀行と話をまとめる、確定申告ができる、条文が読める程度の法律学の知識、労災を起こさないための安全対策、必要な保険の契約、各種許認可の取得

といったものが開業する前に必要になる。僕の知っている限り、中小企業の社長さん(またはその奥さん)は得意不得意はあるけど全員これが一通りできる。

 

従業員にやらせることもできるんだけど、その人が辞めた時に本社機能が止まると認可の維持ができなくなって詰む。

起業したいなら僧侶になれ。悟れ。

というのが本講習の主旨であり、講習は「肩こりと腰痛に気をつけて」とアドバイスして終わりになる。