万事、塞翁が馬

人生の幸・不幸は予測しがたい。京都の酒造ベンチャー"FLFS"の「名目上の社長」こと姉崎亮太の平凡な日常の記録。

酒造免許を取ってクラフトジンの工場を建てるとざっくりいくらかかるか

「クラフトジンを作りたいんです」という人が結構いらっしゃる。酒造免許を取って起業したいんだそうだ。酒造免許は書類さえそろえれば取れるが起業したところで採算が取れるかは別の話だ。

というわけでこんなものを作ってみた。

docs.google.com

  1. 結論:小規模な製造業は採算性が悪い
  2. 解説:前提条件および各パラメータについて
  3. 補足:経営的なアドバイス

1.結論:小規模な製造業は採算性が悪い

製造業はスケールメリットがあるので生産量が上がれば上がるほど収益性がよくなる。そのためには大量に作れる巨大な製造設備が必要になり、ビール工場にしろウイスキー工場にしろ巨大化していく。

「小さな工場でゆるゆる働いて食って生きたい」というのは基本的にはファンタジーだ。

親が酒造工場をやっていて設備の減価償却が済んでいるならまだしも、借金して設備投資して機械買ってローンの支払いかかえれば「ガムシャラに働く」以外の選択肢は人生になくなる(がんばって作っても売れないとつぶれるからねー)。

結論としては

  1. 大規模工場を建設して大量に生産する
  2. 小規模なら自社で生産せずOEM生産(外注)する
  3. 大規模工場を建設するリハーサルとして小規模工場を作る

の3つしかなくて、3は過渡期でありなるべく短く(3-5年)なるよう頑張って早く大規模工場建設に着手するべきだと思う。OEMについてはそのうち書く。

2.解説:前提条件および各パラメータについて

売上:

作ったものは営業も宣伝もしないでも全部売れると仮定している。

工場出荷価格:

これは直販なのか問屋を通すのかで変わる。
業界内では

  1. メーカ:50%
  2. 問屋:15-20%
  3. 売店:30-35%

というのが相場だ。500ccボトル1本で3980円くらいとした。が、クラフトジンについてはめっちゃ高いのはいっぱいあるので1万を超える値段をつけてもおかしくはないだろう(ブーム去った後にそれでやっていけるかは別として)。

移出数量:

最低移出数量(出荷量)というのが法律で決まており年間に6000L出荷する事になっている。何年でクリアするかは別にして、最低でもそれだけ作れるだけの設備投資は求められる。

原価:

ガラス瓶にしろシールにしろ金はいくらでもかけることができる。これはあくまでも「大量生産された規格品の安いビンに格安印刷のラベルを貼った時」の話だ。

オリジナルデザインのボトルを作ろうとすると金型代だけで200万からだそうだ。

ボトルを奇抜な形にできない以上、デザインで来れるのはラベルだけだ。金色とか複雑な形状とかラベルは凝ると高くなる

裏ラベルというのは食品表示法で義務付けられてる内容量とか原料とかを書いてる安い白いシールの事だ。表はデザイン性を追求してカッコよく、裏はなるべく安くという感じ。1枚50円はかなり素朴なデザイン。安め。

人件費:

1か月の労働力を800マンアワーと考えて、社長が300時間働き、残りの500マンアワーをバイト6人で80時間ずつ分ける感じである。1000円はかなり安い。今後上がっていくだろう。

製造業の実務は分類するとだいたいが単純作業だ。掃除や洗い物といった衛生管理、製造は機械の操作、使った後の分解洗浄、在庫管理ほかの管理業務など多種多様で膨大な単純作業だ。アルバイトに任せられるし、なんなら機械化を進めて無人工場を目指してもいい。

数年前から労働人口の不足、人手不足というのが大きな問題になっててバイトを集めるのは非常に大変である。物心ついたときから高失業率・デフレなので生きているうちに日本に人手不足・インフレの時代が来てびっくりしてる。10年前とは全然違い、時代の流れとしか言いようがない。

設備投資:

アルバイトに手作業でチマチマやらせるより機械をいれてガーとやった方がいい。ここをケチると人件費が跳ね上がる。

建物の建設費・改修費がどれくらいかかるかはケースバイケース。建築基準法他の規制は地域にもよる。改修費100万円というのはすごく理想的な物件が手に入ってちょっと手直しするだけですんだケース。かけようと思えばいくらでもかけれる。

その他の機械類は恥ずかしくないヤツを一式を買ったらこうなると思うが、もやしもんの1巻を読んだら発酵蔵の改修費が1千万円で「ま、そんなもんだよね」と思った。

中古にしろ中国製にしろ安いのはいくらでもあるが怖いので買えない。トラブルがあった場合、新品買えるくらいの追加費用がかかるのはざらだ。交換部品が手に入らなければ捨てるしかない。
機械の値段というのは機械メーカーが客の足元を見て決めてるので、案外よくできた仕組みだ。

製造業をする以上設備投資のために借金するのはある意味でしょうがない。100万借金して機械買って返済して300万借金して返して1000万借りて、というのを延々繰り返す形になるのは宿命だ。それはトヨタだろうとなんだろうと一緒だと思う。

返済期間:

寿命10年として10年で償却とした。大事に使えば15年-20年使えると思うが、メンテナンスコストがかかるのでうーん。あまり変わらないと思う。

酒税:

アルコール度数と量で決まる。売れなければ少ないし、売れたら増える。

家賃およびその他の経費:

工場は家賃15万で借りてる設定だが、ちょっと無理があるかな?かなりボロい建物だと思う。賃貸で商売するのは大家の気分で追い出されるリスクがあるので土地建物は自分で買った方がいいと思うんだが、設備投資で1000万かけてるのでむりだろうね。

その他の経費が月10万円はかなり安いとは思うがコストカットできそうなのがここしかなかった。

3.補足:経営的なアドバイス

 金はいくらでもかけることができるが、かければかけるほど損益分岐点が上がり採算を取るのが難しくなる。となると

  • なるべく金をかけない
  • 高いものは補助金で買う

のどちらかを選ぶことになる。
機械はあった方がいいけどちょっとした工夫で無くてもどうにかなったりはするしね。補助金は書類仕事大変だけど頑張ったら取れる。

中小企業の経営、社長の経営手腕というのはそういうもんである。味が美味しいとか美味しくないとかはこれらの条件をクリアした後の話だ。美味しく作りさえすれば売れて儲かるなんて風には世の中はできていない。経営で大事なのはとにかく、金策