万事、塞翁が馬

人生の幸・不幸は予測しがたい。京都の酒造ベンチャー"FLFS"の「名目上の社長」こと姉崎亮太の平凡な日常の記録。

「酒造免許を取りたいんです!」えーと、取ってどうするの?

人間も暖かくなると動き出すようで
「酒造免許を取りたいので相談に乗ってください!」
「GWに京都に行くのでそのついでにお願いします」
という依頼が、すでに4件来ており

なんでこいつらそんなに酒造免許なんぞ欲しいと思うんや?
(あと当然のごとく”アネザキはGW返上で働いてるに違いない”って思われてるのなんで?実際働いてるわけだが)

  1. 酒造免許自体は割と簡単にとれる
  2. 酒造免許取得しての開業とファブレス(ファントムブリュワリー)の違い
  3. どれくらいの覚悟ですか?

1.酒造免許自体は割と簡単にとれる

酒造免許がわりと簡単に取れるという話は以前に書いた。

flfsanez.hateblo.jp

酒造免許関係については#酒造免許のタグをつけているので他の記事も参考にしてほしい。この3年ではビール関係がちょっと変わったのと焼酎の税率が変わったのと、新しく日本酒特区を作るとかって話があるくらいで基本的には変わってない。

ようするに「酒造免許というのは役所が出す認可にすぎず、書類さえそろえれば誰でも(ヤクザとか税金滞納してるとかは除く)取れる」

だから「酒で起業する上での最大のハードルは免許だ!」と思ってるとしたら、それは勘違いだ。こんなもの書類をただいっぱい書かされる(100枚くらい)のと半年待たされるのと(6か月分の空家賃がかかる)のと各種登録免許税で20万くらいかかるくらいの話だ。

酒造免許を取らなくても酒造会社に生産を委託するファントムブリュワリーという形態も最近は多く、免許を取らなくても企業ができるしお金もそんなにかからないので
「ただ起業がしたい!」という人に対してはそっちをお勧めしている。

(「酒造りが楽しそうだからやりたい」という人に対しては酒造メーカーで働きなさいと言ってる。製造業はどこも人手不足だし、薄給だろうけど給料が出て、どこもブラックなので一日中飽きるまで酒造りができる。借金して起業とかしなくていいじゃん)

2.酒造免許取得しての開業とファブレス(ファントムブリュワリー)の違い

酒造免許を取得すると許認可事業者の義務として各種書類の作成が義務付けられる。年間に300時間くらいは書類仕事をしている。この書類仕事は何枚書いても1円にもならない純粋なコストファクターだ。その上、酒税法の知識がいるのでバイトはもとより税理士・行政書士にやらせることはできないし、責任者なので社長がやることになる。

書類に間違いがあった時とかは平日に税務署に呼び出されることになる。サラリーマンをしながらの副業としてやるのは向いてない。税務署は9時5時しか開いてないからだ。

製造業と言うのはモノづくりの部分を丹念に分解していくとほとんどが単純作業に分解することができる。単純作業はバイトやロボットにやらせることができる。
でも書類仕事はバイトや機械に任せられないので自分でやることになる。

酒造り:バイトやロボットがやる
書類づくり:社長の仕事

といった図になる。「3度の飯よりも役所の書類を書くのが好きだ」という人には向いてると思う。

ファントムブリュワリー(OEM)なら書類作成などの業務は委託先の工場がやるのでこの作業コストは発生しない。外注中心でビジネスをするというのも、それはそれで難しさや面倒があるのは事実で必ずしも素晴らしいとは思わないけれども、
「起業してみよっかなー」
くらいののりなんだったらそっちの方がいいのは間違いない。100万もあればできるし。

3.どれくらいの覚悟ですか?

もう一個大きな違いがある。金の話だ。

酒造免許を取る=酒造工場を経営する

という事だ。つまり不動産投資だ。

アパート経営を考えてほしい。「エアコンを付けるか付けないかで家賃(月収)が5000円くらい変わる」「外観や内装がオシャレかどうか」「エレベーターがついてるかついてないか」「ペット可かどうか」といった条件をクリアすると月収が上がるし空き室率が下がる。そのために何十万とか何百万か手持ちの物件に課金して月々の収益で返済してく。

工場も同じで、稼働日数は多い方がいいからなるべく休みなく働くのは当然として

  • ボトルを洗う機械(200万~)を買うと手でボトルを洗うより効率的(人件費がそれだけ浮く)
  • 瓶詰めの機械を買う(ちゃちいので30万~、しっかりしたやつは200万くらい)と効率的(人件費がそれだけ浮く)
  • ボトルにラベルを貼る機械を買うと(これもちゃちいのが30万~)と効率的(人件費がそれだけ浮く)
  • 機械の設置には技術者を呼ぶ必要があるので10万くらいはかかるんじゃない?
  • それぞれの作業を独立してやらせると人件費がかかるのでシームレスに行うシステムを作ると効率的だが、数億円かかる。
  • 数人で働く広さの建物を建てると1000万円くらいはかかるんじゃない?重たい機械を入れるには床が抜けない頑丈な建物でないといけない。
  • うちは借家だけど、大家に「出て行ってくれ」って言われたら出ていかないといけない(廃業するか移転費用をかけるか選ぶ)ので自分で土地買うというのは大事だ。

酒造免許を取るのは別に難しくないけど、効率的に儲けるために機械をドンドン買うか無駄な人件費をかけて手作業でやり続けるかを選ぶ必要があり、どうせ設備投資するなら早い方がいい(時間が無駄になる)ので銀行から金を借りて機械を買い、月々の売上から支払っていく事になる。

もちろん中国製の安い機械を使うとか、家族が時給0円で働くとか、色々あるはあるんだけど、商売の世界は100万円なんてはした金なので、気付いたら1000万なんて簡単に超えるだろう(中小企業の経営で1000万の借金なんて小粒なほうだ)。借金は儲かってるんだったら特に問題は無いんだ。商品がヒットせず儲からなかった場合は大変だと思うが。

一般に始めるより終わる方が難しい。離婚が結婚の3倍大変なように、開業するより閉業する方が大変だ。工場を閉鎖するというのはなかなか大変だ。書類手続きも多いし、債権者との話し合いも時間がかかるだろう。機材の引き取り手を探して、在庫の廃棄処分をして、撤去費用もかかる。

  • いくらくらいまで借金するつもりなのか
  • 何年くらい棒に振ってもかまわないと思ってるのか
  • 最悪の場合は撤退することになるが、その判断基準は何か

と言ったことを僕は覚悟と呼んでいる。半端な覚悟でやると割と簡単に人生棒に振るよー。