万事、塞翁が馬

人生の幸・不幸は予測しがたい。最後に立っていたやつが勝ちさ。京都で酒造ベンチャーをやっているよ。

お行儀の悪いことをすると損するぜ

新潟の依頼人からクロモジで酒を作りたいという人を紹介された。
それが2か月くらい前で、渋谷のイベントの前でちょっと忙しかったのだが紹介である以上仕方がない。酒税法上のなんやらとか食品衛生法やPL法がどうこうとか、以前「木のリキュール」を作った時にどういう所に苦労したとかそういう話をした。林業をやっている人で独自のアイディア商品なんかを過去に作っているそうだ。
「イベントが終わるまでは手一杯なので10月からやりましょう」
という話だった。 その人はイベントにも来てくれてそこで名刺交換をした。東京から京都に帰ったら以下のメッセージが届いた。

おはようございます!先日はお忙しい時間にお声掛けしてしまいまして、申し訳ありませんでした。

クラフトジンにつきまして、色々と悩みましたところ、どうしても新潟県内で製造したい思いがあり、その後いろいろと掛け合ってみたところ、1つの酒蔵が協力していただけるとのことで、今回は新潟の酒蔵でクラフトジン を製造する決意をしました。

姉崎様には色々とご指導いただいたにも関わらず、本当に申し訳ございません。弊社もお酒業界に参入するにあたり、少しでもこの業界に貢献できるよう邁進してまいります。
ワガママな申し出ですが、姉崎様のお酒に対する思いにとても惹かれます。 今後ともお付き合いいただけましたら幸いです。 何卒よろしくお願いします。

OEMの案件がポシャることはよくある。
見積りを送ったが、サンプルを作ったが、見学に来たので相談を受けたが、「進捗をメールします」と言っていたが音信不通、などなど。 商売にしようというわけだから乗り越えるハードルは多く高い。計画の細部を詰めたうえで見切りをつけて諦めるのも一つの才覚だと思ってる。 とはいえ、
「よそに決めたから。じゃあね」
ってのはさすがに初めてだ。

連絡してきた分だけ律儀だ、と思うべきだろうか?でも散々質問してアドバイスを受けてから
「やっぱりよそに発注します」
というのは、まぁ、お行儀が悪いのは間違いない。資本主義社会では情報や信用も商品だからさ。新潟県内で作りたいというなら最初から県外の業者に話をする必要がないので、クライアント側の一方的な都合で仕事のキャンセルなんてしたらかかった経費とか請求されたりするし、特に今回は紹介を受けているわけで紹介先に対して行儀の悪いことをするのは紹介者のメンツをつぶすわけだし、凄いなーの一言である。

不可解なのは、彼はイベントの3日目くらいに来て挨拶をしたわけだが、その頃にはもう別の業者にあたりを付けていたはずだ。これから切り捨てる業者に挨拶に行く必要があったんだろうか?
まぁちょっと変わった人ではあるんだ。受け取った名刺には「活動家」と書いてあって赤軍派かなんかかと思った。

弊社もお酒業界に参入するにあたり、少しでもこの業界に貢献できるよう邁進

商品もまだ作ってないのにずいぶんと大仰だ。うちよりも安い見積もりを出すところあるわけない(時給換算すると最低賃金くらいになる。完全に酔狂で引き受けてる)し、クラフトジンもすでに国内だけで50くらいあって「ロンドン・ニューヨークでは流行ったが、日本人はジンは飲まないな」なんて話も出てるくらいで、そう簡単に利益が出るとは思えない。ずいぶんと風呂敷広げるなぁと思った。

ま、いっか。 今後関わることもないし、考えてもしょうがない。
せいぜい頑張ってね。

40代からのキャリアチェンジって無理じゃね?

先週この記事を読んでから色々考えてたんだけど「40代からできる事って相当選択肢少ないよ?」以外の言葉が見つからなかった。

news.nicovideo.jp

僕は今年35で、四捨五入すれば40だ。同級生との会話でも転職の話は出なくなったし、「会社にしがみつくのが正解だよ」という話もチラホラ。ちょっと前まで若者だったのになぁ、みんな。年齢とともに可能性が消えていく。努力してたヤツも、センスがあったヤツも、見た目も含めてどんどんただのオッサンになっていく

だからこの記事のターゲットになっている「社内での出世をあきらめて別の可能性に賭けたい40代」というのを笑えない立場だ。昔は嘲笑してたのにね。人間というのはなりたくないと思ってるものにいつかはなるんだよ
でも無いんだよなぁ、選択肢。

人生は積み重ねであり一発逆転というのは無い。人間は勝っているときはコツコツ勝ちたがり、負けてるときは一発逆転を狙いたがる(プロスペクト理論)。フィクションの燃える展開というのはこの心理法則に乗っとることでなりたっている。
この心理法則を無意識に自分の人生に当てはめようとするので「どうせ会社を辞めるなら一発当てたい」みたいな「ドラマチックな何か」を求める発想になる。当然だが、人生にそんなものない。そんな都合よくない、というか経済活動は営利目的でありマーケットの原理が働き、需要と供給の一致で取引をしてるだけだ。ある種、機械的に資源分配をしてるだけなので「情熱」とか「ドラマチック」みたいな精神的な部分はあまり意味がない。

人間は25歳までは新しい事を覚えることができる。25歳からは新しいことを覚えるのではなく覚えたことの活用法を模索する事を始める。32.3くらいに使い方がわかってきてそのノウハウが10年くらい使える。

「40代で今の人生に見切りをつける」という事は「蓄えたノウハウの限界が見えた」「オワコン化している」という事を意味している。

仮に45歳だとして新しいことを3-5年かけて学び、その活用法を3-5年かけて模索したとして6-10年かかる。そこから起業して軌道に乗るまでに3-5年かかるとして、運良く軌道に乗ったとしても9-15年かかるわけだが、
「今から10年投資するとしてその後10年食えるスキルって何?」
って考えると、そんなものないよね。
思いつくのは人工知能と語学だが、15年後は人工知能も言語解析も相当なレベルになってて素人に毛が生えた程度で何かできるとは思えない。

そもそも若い人と違って体力勝負ができないし、資金を投じるにも限界がある。若い人は仮に失敗して借金を背負ったとしても働いて返してもう一回勝負ができるが、中年で失敗して借金が残ると返す目途がたたない。

とすると今までやってきたことの延長でどうにかするしかないわけだが、今持っているものに直接的な収益性があるならば、今の会社で大事にされてるか、同業他社から引き抜きがあるか、すでに独立開業を模索してるだろう。今から何かを考えるってかなり無理がある。

かといって人生100年時代だ。「何もしない」って選択肢だけは選べない。この暗中模索する感じがきついなーと感じる。

そもそも起業って転職ができないからしぶしぶするものではなくて、「いける!」という確信(ないし狂気)で積極的に選ぶ選択肢なので、
"「起業、転職、再雇用」の順に難易度が高いと考えがちですが、実は逆だと思うんです"
とか言ってるようじゃ厳しいよね。

それでもなお、どうにかしたいと思うなら

1.若い人の意見を聞くこと
先の時代が見えてる20代のヤツにこれからくるものを聞かないとしょうがない。インタビュー相手が60代っておかしいんだ。
2.インターネットの活用
リアルで人間にあってもしょうがない。名刺をどれだけ配ったって無駄になる。自分はこういう人ですという発信によって相手に「会いたい」「話が聞きたい」と思ってもらえない場合は名刺交換以後、アポを取って会うというステップにつながらない。
3.模索してる工程をブログで公開する
コンテンツがあるならそれをブログにすればいいけど、無い場合は初歩から何かを学んでいくしかない。その過程ではまったミスとか試行錯誤をブログに書いていけば、そのジャンルをやっている若い人たち「変なオッサンがいる」と認知されるまではそんなに難しくない

っていう感じかな。

そこまで行ってもそのジャンルで成功するのは若いやつらで、自分たちじゃないことは覚悟しないといけない。それでも、それにプラスして今までにやったことの組み合わせで境界領域でユニークなことができる可能性に賭けるしかない。

健闘を祈る。

酒造免許を取ってクラフトジンの工場を建てるとざっくりいくらかかるか

「クラフトジンを作りたいんです」という人が結構いらっしゃる。酒造免許を取って起業したいんだそうだ。酒造免許は書類さえそろえれば取れるが起業したところで採算が取れるかは別の話だ。

というわけでこんなものを作ってみた。

docs.google.com

  1. 結論:小規模な製造業は採算性が悪い
  2. 解説:前提条件および各パラメータについて
  3. 補足:経営的なアドバイス

1.結論:小規模な製造業は採算性が悪い

製造業はスケールメリットがあるので生産量が上がれば上がるほど収益性がよくなる。そのためには大量に作れる巨大な製造設備が必要になり、ビール工場にしろウイスキー工場にしろ巨大化していく。

「小さな工場でゆるゆる働いて食って生きたい」というのは基本的にはファンタジーだ。

親が酒造工場をやっていて設備の減価償却が済んでいるならまだしも、借金して設備投資して機械買ってローンの支払いかかえれば「ガムシャラに働く」以外の選択肢は人生になくなる(がんばって作っても売れないとつぶれるからねー)。

結論としては

  1. 大規模工場を建設して大量に生産する
  2. 小規模なら自社で生産せずOEM生産(外注)する
  3. 大規模工場を建設するリハーサルとして小規模工場を作る

の3つしかなくて、3は過渡期でありなるべく短く(3-5年)なるよう頑張って早く大規模工場建設に着手するべきだと思う。OEMについてはそのうち書く。

2.解説:前提条件および各パラメータについて

売上:

作ったものは営業も宣伝もしないでも全部売れると仮定している。

工場出荷価格:

これは直販なのか問屋を通すのかで変わる。
業界内では

  1. メーカ:50%
  2. 問屋:15-20%
  3. 売店:30-35%

というのが相場だ。500ccボトル1本で3980円くらいとした。が、クラフトジンについてはめっちゃ高いのはいっぱいあるので1万を超える値段をつけてもおかしくはないだろう(ブーム去った後にそれでやっていけるかは別として)。

移出数量:

最低移出数量(出荷量)というのが法律で決まており年間に6000L出荷する事になっている。何年でクリアするかは別にして、最低でもそれだけ作れるだけの設備投資は求められる。

原価:

ガラス瓶にしろシールにしろ金はいくらでもかけることができる。これはあくまでも「大量生産された規格品の安いビンに格安印刷のラベルを貼った時」の話だ。

オリジナルデザインのボトルを作ろうとすると金型代だけで200万からだそうだ。

ボトルを奇抜な形にできない以上、デザインで来れるのはラベルだけだ。金色とか複雑な形状とかラベルは凝ると高くなる

裏ラベルというのは食品表示法で義務付けられてる内容量とか原料とかを書いてる安い白いシールの事だ。表はデザイン性を追求してカッコよく、裏はなるべく安くという感じ。1枚50円はかなり素朴なデザイン。安め。

人件費:

1か月の労働力を800マンアワーと考えて、社長が300時間働き、残りの500マンアワーをバイト6人で80時間ずつ分ける感じである。1000円はかなり安い。今後上がっていくだろう。

製造業の実務は分類するとだいたいが単純作業だ。掃除や洗い物といった衛生管理、製造は機械の操作、使った後の分解洗浄、在庫管理ほかの管理業務など多種多様で膨大な単純作業だ。アルバイトに任せられるし、なんなら機械化を進めて無人工場を目指してもいい。

数年前から労働人口の不足、人手不足というのが大きな問題になっててバイトを集めるのは非常に大変である。物心ついたときから高失業率・デフレなので生きているうちに日本に人手不足・インフレの時代が来てびっくりしてる。10年前とは全然違い、時代の流れとしか言いようがない。

設備投資:

アルバイトに手作業でチマチマやらせるより機械をいれてガーとやった方がいい。ここをケチると人件費が跳ね上がる。

建物の建設費・改修費がどれくらいかかるかはケースバイケース。建築基準法他の規制は地域にもよる。改修費100万円というのはすごく理想的な物件が手に入ってちょっと手直しするだけですんだケース。かけようと思えばいくらでもかけれる。

その他の機械類は恥ずかしくないヤツを一式を買ったらこうなると思うが、もやしもんの1巻を読んだら発酵蔵の改修費が1千万円で「ま、そんなもんだよね」と思った。

中古にしろ中国製にしろ安いのはいくらでもあるが怖いので買えない。トラブルがあった場合、新品買えるくらいの追加費用がかかるのはざらだ。交換部品が手に入らなければ捨てるしかない。
機械の値段というのは機械メーカーが客の足元を見て決めてるので、案外よくできた仕組みだ。

製造業をする以上設備投資のために借金するのはある意味でしょうがない。100万借金して機械買って返済して300万借金して返して1000万借りて、というのを延々繰り返す形になるのは宿命だ。それはトヨタだろうとなんだろうと一緒だと思う。

返済期間:

寿命10年として10年で償却とした。大事に使えば15年-20年使えると思うが、メンテナンスコストがかかるのでうーん。あまり変わらないと思う。

酒税:

アルコール度数と量で決まる。売れなければ少ないし、売れたら増える。

家賃およびその他の経費:

工場は家賃15万で借りてる設定だが、ちょっと無理があるかな?かなりボロい建物だと思う。賃貸で商売するのは大家の気分で追い出されるリスクがあるので土地建物は自分で買った方がいいと思うんだが、設備投資で1000万かけてるのでむりだろうね。

その他の経費が月10万円はかなり安いとは思うがコストカットできそうなのがここしかなかった。

3.補足:経営的なアドバイス

 金はいくらでもかけることができるが、かければかけるほど損益分岐点が上がり採算を取るのが難しくなる。となると

  • なるべく金をかけない
  • 高いものは補助金で買う

のどちらかを選ぶことになる。
機械はあった方がいいけどちょっとした工夫で無くてもどうにかなったりはするしね。補助金は書類仕事大変だけど頑張ったら取れる。

中小企業の経営、社長の経営手腕というのはそういうもんである。味が美味しいとか美味しくないとかはこれらの条件をクリアした後の話だ。美味しく作りさえすれば売れて儲かるなんて風には世の中はできていない。経営で大事なのはとにかく、金策

「酒造免許を取りたいんです!」えーと、取ってどうするの?

人間も暖かくなると動き出すようで
「酒造免許を取りたいので相談に乗ってください!」
「GWに京都に行くのでそのついでにお願いします」
という依頼が、すでに4件来ており

なんでこいつらそんなに酒造免許なんぞ欲しいと思うんや?
(あと当然のごとく”アネザキはGW返上で働いてるに違いない”って思われてるのなんで?実際働いてるわけだが)

  1. 酒造免許自体は割と簡単にとれる
  2. 酒造免許取得しての開業とファブレス(ファントムブリュワリー)の違い
  3. どれくらいの覚悟ですか?

1.酒造免許自体は割と簡単にとれる

酒造免許がわりと簡単に取れるという話は以前に書いた。

flfsanez.hateblo.jp

酒造免許関係については#酒造免許のタグをつけているので他の記事も参考にしてほしい。この3年ではビール関係がちょっと変わったのと焼酎の税率が変わったのと、新しく日本酒特区を作るとかって話があるくらいで基本的には変わってない。

ようするに「酒造免許というのは役所が出す認可にすぎず、書類さえそろえれば誰でも(ヤクザとか税金滞納してるとかは除く)取れる」

だから「酒で起業する上での最大のハードルは免許だ!」と思ってるとしたら、それは勘違いだ。こんなもの書類をただいっぱい書かされる(100枚くらい)のと半年待たされるのと(6か月分の空家賃がかかる)のと各種登録免許税で20万くらいかかるくらいの話だ。

酒造免許を取らなくても酒造会社に生産を委託するファントムブリュワリーという形態も最近は多く、免許を取らなくても企業ができるしお金もそんなにかからないので
「ただ起業がしたい!」という人に対してはそっちをお勧めしている。

(「酒造りが楽しそうだからやりたい」という人に対しては酒造メーカーで働きなさいと言ってる。製造業はどこも人手不足だし、薄給だろうけど給料が出て、どこもブラックなので一日中飽きるまで酒造りができる。借金して起業とかしなくていいじゃん)

2.酒造免許取得しての開業とファブレス(ファントムブリュワリー)の違い

酒造免許を取得すると許認可事業者の義務として各種書類の作成が義務付けられる。年間に300時間くらいは書類仕事をしている。この書類仕事は何枚書いても1円にもならない純粋なコストファクターだ。その上、酒税法の知識がいるのでバイトはもとより税理士・行政書士にやらせることはできないし、責任者なので社長がやることになる。

書類に間違いがあった時とかは平日に税務署に呼び出されることになる。サラリーマンをしながらの副業としてやるのは向いてない。税務署は9時5時しか開いてないからだ。

製造業と言うのはモノづくりの部分を丹念に分解していくとほとんどが単純作業に分解することができる。単純作業はバイトやロボットにやらせることができる。
でも書類仕事はバイトや機械に任せられないので自分でやることになる。

酒造り:バイトやロボットがやる
書類づくり:社長の仕事

といった図になる。「3度の飯よりも役所の書類を書くのが好きだ」という人には向いてると思う。

ファントムブリュワリー(OEM)なら書類作成などの業務は委託先の工場がやるのでこの作業コストは発生しない。外注中心でビジネスをするというのも、それはそれで難しさや面倒があるのは事実で必ずしも素晴らしいとは思わないけれども、
「起業してみよっかなー」
くらいののりなんだったらそっちの方がいいのは間違いない。100万もあればできるし。

3.どれくらいの覚悟ですか?

もう一個大きな違いがある。金の話だ。

酒造免許を取る=酒造工場を経営する

という事だ。つまり不動産投資だ。

アパート経営を考えてほしい。「エアコンを付けるか付けないかで家賃(月収)が5000円くらい変わる」「外観や内装がオシャレかどうか」「エレベーターがついてるかついてないか」「ペット可かどうか」といった条件をクリアすると月収が上がるし空き室率が下がる。そのために何十万とか何百万か手持ちの物件に課金して月々の収益で返済してく。

工場も同じで、稼働日数は多い方がいいからなるべく休みなく働くのは当然として

  • ボトルを洗う機械(200万~)を買うと手でボトルを洗うより効率的(人件費がそれだけ浮く)
  • 瓶詰めの機械を買う(ちゃちいので30万~、しっかりしたやつは200万くらい)と効率的(人件費がそれだけ浮く)
  • ボトルにラベルを貼る機械を買うと(これもちゃちいのが30万~)と効率的(人件費がそれだけ浮く)
  • 機械の設置には技術者を呼ぶ必要があるので10万くらいはかかるんじゃない?
  • それぞれの作業を独立してやらせると人件費がかかるのでシームレスに行うシステムを作ると効率的だが、数億円かかる。
  • 数人で働く広さの建物を建てると1000万円くらいはかかるんじゃない?重たい機械を入れるには床が抜けない頑丈な建物でないといけない。
  • うちは借家だけど、大家に「出て行ってくれ」って言われたら出ていかないといけない(廃業するか移転費用をかけるか選ぶ)ので自分で土地買うというのは大事だ。

酒造免許を取るのは別に難しくないけど、効率的に儲けるために機械をドンドン買うか無駄な人件費をかけて手作業でやり続けるかを選ぶ必要があり、どうせ設備投資するなら早い方がいい(時間が無駄になる)ので銀行から金を借りて機械を買い、月々の売上から支払っていく事になる。

もちろん中国製の安い機械を使うとか、家族が時給0円で働くとか、色々あるはあるんだけど、商売の世界は100万円なんてはした金なので、気付いたら1000万なんて簡単に超えるだろう(中小企業の経営で1000万の借金なんて小粒なほうだ)。借金は儲かってるんだったら特に問題は無いんだ。商品がヒットせず儲からなかった場合は大変だと思うが。

一般に始めるより終わる方が難しい。離婚が結婚の3倍大変なように、開業するより閉業する方が大変だ。工場を閉鎖するというのはなかなか大変だ。書類手続きも多いし、債権者との話し合いも時間がかかるだろう。機材の引き取り手を探して、在庫の廃棄処分をして、撤去費用もかかる。

  • いくらくらいまで借金するつもりなのか
  • 何年くらい棒に振ってもかまわないと思ってるのか
  • 最悪の場合は撤退することになるが、その判断基準は何か

と言ったことを僕は覚悟と呼んでいる。半端な覚悟でやると割と簡単に人生棒に振るよー。

「酒で起業したい」という相談を受けたときの話

「ブログを見て酒造りで起業したいんですけど相談に乗ってもらえませんか?」

という依頼が最近多い。毎年、春に多い。似たような話を何回もするのも疲れるので、ここにあらかじめ書いておきます。

 

クラウドファンディングを活用して需要先行で在庫を持たないリスクのない形でやりたい」
という風に皆さんおっしゃります。それでおおざっぱな事業計画を考えるという事になります。

おおざっぱな事業計画は実際にやるときには何の役にも立ったないのでスパッと忘れて目の前のことに取り組んでいく事が大事だ。とはいえ、役所から補助金もらうにしろ、銀行から金借りるにしろ青写真は用意しておかないと相手にされない。

クラウドファンディングは大ホームランで100万円、ホームランで50万、一般の人ならヒットで30万、無名の学生なら10万円を目安と考えている。

募集期間が2か月、クラウドファンディング会社の手数料が20%、として1回30万円を年4回実施するとすると、初年度の年商は120万円になる。

そのうち24万円が手数料になる。客単価5000円として240件とすると送料が1件1000円として24万円。この2つの出費は避けられない(販管費というやつである)。
これらを引いた72万円が手元に残るお金だ。

HP製作に30万円、ラベルデザインに5万円、酒販免許の取得に3万円かかるとして残りが39万円。
39万円で250本の生産は酒税が度数で変わったり、ボトルの種類にもよるけどできなくはないかな。トントンくらいだと思う。

今回の相談は農家さんが"加工食品をやりたい"という話だったので、農家向けの補助金が使えるはずだ。年商120万円、経費120万円、利益0のプロジェクトに対して多分経費の1/2か2/3が補助される。
補助金分がまるまる利益になり80万円の黒字になる。

というわけで
年商:120
販管費:81
製造原価:39

------------------------------
営業利益:0
特別利益(補助金):80
------------------------------
純利益:80

てな感じじゃないでしょうか。

この年商120万、経費補助率2/3という見込みはかなりベストに近いので実際は売上は半分もいけばいいところだと思う。その場合は赤字になるが数十万に収まるだろう。

農家向けの補助金は充実してるし採択率も高いので当てにはなる。大赤字になるという事は無いだろうが、1年あれやこれやと大騒ぎして80万くらいの話だったら
「牛丼屋でバイトした方がもらえるよね」
という話になるので、
クラウドファンディングだけで生計を立てるのは無理だよ」
という結論になる。

みんな”クラウドファンディングさえ目標額に達成すれば成功が保証されている!”と思いすぎである。

実際には需要先行のクラウドファンディングだけでは生計が立たないのだから、それプラスしてネット通販、イベント出店、酒屋での販売などの販路拡大が必要だし、在庫をある程度抱える必要も出てくる。

酒は許認可が絡むので色々とややこしい事が多いけど、クラウドファンディングはあくまでも"全体の計画"の中のテストベッド(Bテスト)くらいでしかないですよ、というようなアドバイスになる。

"全体の計画"というのに何を考えてどういう風にやるのか、というのが商売人としての才覚・商売の肝ということになる。

ビジネス誌からの取材の依頼が来た

HPのメールフォームに雑誌からのインタビュー依頼が来た。起業したい人向けの雑誌で小資金で小規模な起業をした人の特集をするんやて。

「確かにうちよりも小資金で設立した酒造ベンチャーはないだろうからうってつけだろうけど、あれだぜ、金ってのはあればあるだけいいんだぜ」

と微妙な気持ちになる。

インタビューの質問もいっしょに来てて

略歴・プロフィールとかビジネスモデル、起業前後の話はいいとして

  • 独立後のやりがいや喜び
  • 今後実現していきたいこと
  • 起業する際に気をつけるべきポイント、ご本人の経験を含めたアドバイス
  • 諦めてしまう人に向けて、経験を含めたアドバイス
  • これから独立を目指す読者たちに向け、独立の先輩としてメッセージを。

え!?ないよそんなの・・・。なんか当日までに考えないと。

 

俺からは「金を配る」という発想は出てこない。貧乏が染みついている

ZOZOの社長さんの1億円お年玉企画はなかなか面白いイベントで2019年のトピックの1つになるだろう。

感想としては
1.年間の広告費が多分1億円で「もっと効果的にフォロワー数増やす方法ないか?」って考えたんだろう。
2.景品表示法違反になりかねないので「個人的に」という文言を入れた。
3.Twitterの規約に違反するのでアカバンされる可能性があるが大口広告主だから大丈夫だろう。
4.結婚が近いのでは?「金持ちと結婚した女」というイメージがつくと損なのでイメージアップする必要があった。
というような事が背景にあるんじゃないかな、というものである。zozoスーツのイメージ悪化の分は取りかえしただろう。創業者社長の大胆さは良し悪しである。

TwitterのRTから抽選するのはAPIなどの技術的な工夫が必要らしいので酒の勢いで思い付きでやったって感じではなさそう。でも本職のプログラマーなら3時間くらいで作れそうではある。「社内で技術的検討をしてクリアしてから実施」「社長が思い付きでやってプログラマーが頑張った」のどっちもありそうだ。

下品だという意見もある、これで増えたフォロワーは乞食ばっかりだから客層悪いというのもある。それはその通りだと思う。だけど「金払いがいい」というのは決して悪いことじゃない。少なくとも赤の他人に1億円出す人は脱税するとか小金儲けるためにヤクザとかかわる可能性は低い。
自分のクリーンさを世間にアピールする、自分の知名度やイメージを上げる・広めるという点で「金を配る」というのは合理的だし、大昔からされてることである。ツイートがバズった結果ZOZOの株価が上がったそうだけど「社長がクレバーで大胆な行動力があるならプラスに評価される」というのも当然のことだと思う(株価なんてあてならんけどね)。
そういう意味では1億とは言わなくてもこれを真似する人は今後どんどん出てくるだろう。評価経済・ネットサロン界隈ならこの費用対効果の高さは無視できないはずだ。金が惜しい人以外はやるだろう。

金持ちが慈善事業に取り組むというのも別に珍しい現象じゃない。
ただしいて言うなら研究費のない大学院に配るとか貧困対策とかもうちょっと目的をもってやって欲しいと思ったし、寄付金控除の対象になるような仕組みでできるはずなんだけど、そういう「合理性・効率性」を考えるのは僕がケチ臭い人間だからだろう。このクラスの金持ちからすると1億くらいはした金なんだろうなあ、という意識の違いを感じた。

勝負所でバーンと金使えるというのは成功者には必要な素質だし、今までもそのくらいの勝負はいくらでもやってきたんだろう。一代で上場企業作る人はやっぱ傑物だよ。